電流を抵抗で電圧に変えて測る。原理は単純ですが、抵抗値の選び方、配線の引き方、アンプの選定、サンプリングのタイミングのどれかを外すと、測った値は簡単に数十パーセントずれます。ソレノイド駆動で実際に効いてくる順に見ていきます。
関連記事 ── ソレノイド逆起電力と還流ダイオード の補足1で、還流期間に Rs の電流がゼロになる話を扱いました。この記事はその Rs 自体をどう設計するかの話です。数値例は Vs = 24 V、R = 20 Ω、保持電流 1.2 A に準じます。
シャント抵抗による電流検出は、オームの法則そのものです。電流の通り道に既知の低抵抗を入れ、その両端に生じる電圧を読みます。
1.2 A を 100 mΩ で受ければ 120 mV。これを増幅して ADC に入れれば電流値が得られます。測っているのは電圧であって、電流ではありません。この当たり前の事実が、以降のすべての問題の出発点になります。電流の経路と電圧を読む経路が少しでも食い違えば、その差がそのまま誤差になります。
Rs は大きいほど信号が大きく取れますが、そのぶん損失と電圧降下が増えます。両側から挟んで決めます。
| Rs | 1.2 A での Vsense | 損失 i²·Rs | 評価 |
|---|---|---|---|
| 10 mΩ | 12 mV | 14 mW | 信号が小さくノイズに弱い |
| 50 mΩ | 60 mV | 72 mW | 妥当 |
| 100 mΩ | 120 mV | 144 mW | 妥当 |
| 500 mΩ | 600 mV | 720 mW | 発熱が大きく、電圧降下も無視できない |
目安は フルスケールで 50〜200 mV です。この範囲なら汎用の電流検出アンプで扱いやすく、損失も現実的に収まります。ソレノイド駆動では次の3点を確認します。
汎用チップ抵抗の温度係数は ±200 ppm/℃ 程度あり、50 ℃ 上昇で 1 % ずれます。電流検出用の金属板抵抗(メタルフォイル、シャント専用品)なら ±50 ppm/℃ 以下です。自己発熱で抵抗値が変わり、その値で電流を計算しているという循環に注意してください。精度が要るなら低 TCR 品を選び、発熱を抑えます。
抵抗値を正しく選んでも、配線を間違えると台無しになります。この章の内容が、実務で最も誤差に効きます。
問題は、はんだ付け部やパターンの抵抗が Rs に直列に入ることです。100 mΩ の抵抗に対して、パターンとはんだで 5 mΩ 加われば 5 % の誤差です。しかもこの分は温度で変わります。
基板で実現するときの要点は3つです。
数十 mV の信号を ADC のフルスケールまで増幅します。選択肢は大きく3つで、Rs をどこに置くかで決まります。
| 方式 | Rs の位置 | 同相電圧 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| オペアンプ(非反転) | GND 側(ローサイド) | ≒ 0 V | 安価で簡単。GND が共通で済む |
| 電流検出アンプ | 電源側(ハイサイド) | 24 V 等 | 負荷の短絡も検出できる。専用 IC が必要 |
| 絶縁アンプ / CT | どちらでも | 数百 V 可 | 高電圧系。コストは上がる |
ソレノイドのローサイド駆動なら、Rs を GND 側に置いてオペアンプで受けるのが最も素直です。同相電圧がほぼゼロなので、汎用のレールツーレール品で足ります。
選定で見るべき仕様は次の2つです。
ADC が 0〜3.3 V、測りたい最大電流が 4 A(突入)、Rs = 50 mΩ とすると、Vsense の最大は 200 mV。ゲインは 3.3 / 0.2 = 16.5 ですが、余裕を見て 15 倍程度にします。ちょうどに合わせると、突入の行き過ぎやノイズで簡単に振り切れて波形が潰れます。
PWM で駆動していると、電流波形にはリプルとスイッチングノイズが重なります。1 点だけ読んでその値を電流とみなすのは危険です。読んだ瞬間がリプルのどこだったかで値が変わり、単発のノイズを拾えばそのまま誤った値になります。
実務では、PWM に同期させて 1 周期内で複数点を取得し、数周期ぶんを平均します。点数はマイコンの処理能力しだいで、10〜100 点程度。平均を取ることでリプルの中間値が求まり、同時にランダムなノイズも打ち消されます。
1 点だけ読む方式との違いは、精度そのものよりも再現性に出ます。1 点方式は読む位置がわずかにずれるだけで値が動きますが、平均は多少ずれても結果が変わりません。実装の指針は次のとおりです。
ローサイド駆動で還流ダイオードがソレノイドに内蔵されている場合、OFF 期間の Rs 電流はゼロです(補足1)。この構成で 1 周期ぶんを平均すると、実際のコイル電流よりデューティ倍に低く出ます。ON 期間のサンプルだけを平均するか、コイルと直列に CT やホール素子を入れてください。外付けで還流電流も Rs を通る構成なら、1 周期平均がそのまま平均電流になります。
測った電流を表示や記録に使うだけなら前章までで足りますが、電流を目標値に保つなら、検出値を制御ループに戻します。ソレノイドの定電流駆動で使う構成です。
偏差をそのままゲートに入れると発振するので、あいだにフィルタ(誤差増幅器)を挟みます。ここが応答と安定性を決める要です。電流が目標より低ければゲートを開く向きに、高ければ絞る向きに働き、結果として電流が指令値に張り付きます。
この構成で気をつける点は3つです。
偏差の処理をアナログ回路(オペアンプ)で組めば応答が速く、マイコンの負荷もかかりません。デジタル(マイコンで PI 演算)にすれば、指令値のプロファイルやゲインをソフトで変更でき、動作中にゲインを切り替えることもできます。応答速度が要るならアナログ、柔軟性が要るならデジタルという分け方が実際的です。
回路ができたら、信じる前に確かめます。順番は次のとおりです。
シャント抵抗で電流を測るときは、抵抗値はフルスケールで 50〜200 mV になるよう選び、突入電流で飽和しないようにする。ケルビン接続でパターン抵抗を測定値から排除する。アンプはオフセット電圧を見て選ぶ。PWM 駆動では タイマに同期して 1 周期内に複数点を取得し、数周期ぶんを平均する(平均区間は周期の整数倍、リンギングの数点は除外)。最後に既知の電流で校正して確かめる。どれも難しくありませんが、ひとつ抜けると数パーセントから数十パーセントの誤差になります。