電源+ → ソレノイド → FET → GND のローサイド駆動で、FET を切った瞬間に何が起きるのか。v = L·di/dt という一本の式から、電圧の極性反転・還流電流・波形の読み方までを追います。
ソレノイドの電源+側(上側)の端子を ①、FET 側(下側)の端子を ② と表記します。① はほぼ電源電圧のノード、② が FET の ON/OFF に合わせて上下するノードです。電流測定用のシャント抵抗 Rs は電源と ① のあいだに置き、還流ダイオードのカソードは Rs の電源側へ接続します。こうすると Rs が還流ループに含まれ、ON 中も還流中も同じ電流が流れるので シャント電流 = コイル電流 になります。そのぶん ① は電源電圧より i·Rs だけ低く、Vs − i·Rs です。
電源電圧を Vs、還流ダイオードの順方向電圧を Vf と書きます。ダイオードは、順方向に加わる電圧が Vf を超えると電流が流れ始める部品です。いわば通電のしきい値で、Vf 以下では(ほぼ)流れません。そして流れ始めたあとも両端には Vf 程度の電圧が残り続けます ── これが「ダイオードによる電圧降下」と呼ばれるものです。値はシリコンの整流・高速回復品でおよそ 0.6〜1.2 V、ショットキーバリアダイオードで 0.3〜0.5 V。電流が増えるほど高く、温度が上がるほど低くなります(厳密には電流はなだらかに立ち上がるので明確なしきい値はありませんが、実用上はこう捉えて差し支えありません)。還流中にコイル両端がクランプされる電圧は、この Vf がそのまま現れたものです。
この分野の説明が分かりにくくなる原因は、たいていこの 3 つの記号の定義が曖昧なまま話が進むことにあります。先に固定しておきます。
コイル(SOL)そのものの、二つの端子間の電位差です。GND は関係しません。
符号には約束があります(受動符号規約)。電流が流れ込む側の端子を + と決めるので、電流が ① → ② の向きに流れるこの回路では ① が +、② が − です。この割り当ては最後まで変えません。
単位は A/s。電流波形の傾きそのものです。電流が増えていれば正、減っていれば負。「FET を切ると di/dt が負になる」は、電流が減り始めると言っているだけです。
単位はヘンリー [H]。「1 V をかけたとき、電流が毎秒どれだけ変化するか」の逆数です。
正体は磁気的な性質で、L = N·Φ / i(N: 巻数、Φ: 磁束)。巻数の 2 乗・鉄心の透磁率・断面積に比例し、磁路長に反比例します。ソレノイドではプランジャが吸引されて奥に入ると磁路が変わるため L も変化します。吸引前と保持中では別の値になる、というのはソレノイド特有の注意点です。
インダクタは電気回路における「質量(慣性)」です。
| 力学 | 電気 | 意味 |
|---|---|---|
| 質量 m | インダクタンス L | 変化しにくさ |
| 速度 v | 電流 i | 維持されようとする量 |
| 力 F | 電圧 v | 変化させる原因 |
| F = m·dv/dt | v = L·di/dt | 運動方程式 |
| ½mv² | ½Li² | 蓄えられるエネルギー |
走っている台車を急には止められないのと同じで、電流が流れているコイルも急には止められません。無理に止めようとすると、その慣性が電圧という形で現れます。これが逆起電力です。
この式は左右どちらからでも読めますが、回路の解析では「電圧 → 傾き」の向きに読むのが正解です。
コイルに何 V がかかるかは、スイッチとダイオードの状態で決まります。それが原因で、電流の傾きが結果です。順序を逆に理解していると「電流が減るから電圧が反転する」という循環した説明になってしまいます。
理想インダクタの式は v = L·di/dt ですが、実物のコイルには巻線抵抗 R が直列に入っています。端子で測れる電圧は両方の和です。
スイッチング電源のチョークコイルなら無視できる項ですが、ソレノイドでは電源電圧の半分を占めます。チョークの R は下げたい寄生成分(数十 mΩ)である一方、ソレノイドの R は電流を Vs/R で止めるための設計値(数十 Ω)だからです。24 V・20 Ω のソレノイドに 0.6 A 流れていれば i·R だけで 12 V。補正項ではなく主役です。
「端子電圧」と「L にかかる電圧」は別物です。ここを混同すると、電流の傾きを大きく見誤ります。詳しくは 理想インダクタと実物のソレノイド を参照してください。
FET が導通しているあいだは、コイルに電源電圧がほぼそのままかかります。v が正なので di/dt も正、電流は増えていきます。問題は切った瞬間です。
½Li² のエネルギーが溜まっており、磁界は瞬時には消えないv の極性が反転した状態Vs + Vf に達した時点でダイオードが順方向になり、そこでクランプされるdi/dt = (v − i·R)/L が負の値に落ち着き、電流はその傾きで減衰していく還流ダイオードは、[3] の逃げ道をあらかじめ用意しておく部品です。電流は コイル → ② → ダイオード → ① のループへ乗り換えます。経路が切り替わるだけで、電流そのものは連続しています。
② は FET の Vds 耐圧(またはアバランシェ電圧)まで上昇し、そこでFET 自身がエネルギーを吸収します。繰り返せば FET が壊れます。これが還流ダイオードを付ける最大の理由です。
ローサイド構成では FET のボディダイオードは役に立ちません。ドレイン正の電圧をブロックする向きに付いているので、外付けが必須です。
PWM 駆動が落ち着くと、電流はゼロまで落ちず一定の帯を往復します(連続導通モード)。端子電圧は Vs − i·Rs と −(Vf + i·Rs) を往復する矩形波、電流はその間を直線的に上下する三角波になります。Rs がコイルと直列に入っているぶん、どちらの段も i·Rs だけ下にずれます。
この波形から、3 つの関係が読み取れます。定常状態では 1 周期で電流が正味変化しない(電圧・秒平衡)ことが出発点です。
[1] は、デューティと電源電圧とクランプ電圧だけで電流経路の直列抵抗が決まることを意味します(巻線抵抗 R と Rs の合計。Rs は既知なので R も出ます)。[3] は、抵抗値も平均電流も知らないまま L を求められる、という便利な性質です。
還流中に端子へ現れるのは −(Vf + i·Rs) ですが、L にかかっているのは −Vf − i·( R + Rs ) です。差分は直列抵抗が担っています。v = L·di/dt に端子電圧を直接代入すると、減衰の傾きを大きく見誤ります。
「OFF の瞬間に大きな + の電位が出る」と「マイナスサージが出る」は、同じ現象を違う場所から見た表現です。どちらが正しいかではなく、どこを基準に測ったかで決まります。
Vf だけ上回る + 側の段、右では 0 V を Vf + i·Rs だけ下回る − 側の段として現れる。極性が反転しているのは事実だが、ダイオードでクランプされているため振幅はどちらも Vf 程度にとどまる。電源+ → FET → SOL → GND の順に並べた回路では、FET と SOL の接続点は OFF 時に GND より下(−Vf)に振れます。「マイナスサージ」という直感が素直に当たるのはこちらの構成です。回路図の並び順で符号が変わる、と覚えておくと混乱しません。
なお、SOL の両端(① と ②)はどちらも GND 基準ではありません。オシロの GND クリップを ① に付けるのは厳禁です。シャーシが保護接地に繋がっているため、電源+がアースに短絡します。② だけを GND 基準で測り v = Vs − V(②) と読み替えるか、差動プローブを使ってください。ただし ① は Vs − i·Rs なので、正確には v = Vs − i·Rs − V(②) です。
ここまでは、還流ダイオードを Rs と SOL の直列区間に並列に付けた配置(図 1・図 2)で話を進めてきました。この配置では還流電流も Rs を通るため、シャントにコイル電流がそのまま現れます。一方、還流ダイオードがソレノイドに内蔵されている製品では、ダイオードがコイルだけに並列に入るため事情が変わります。コイルに流れている電流と、Rs で観測される電流が別物になるのです。これを混同すると保持電流を実際より低く見積もります。
内蔵ダイオードの場合に Rs の電流が還流期間でゼロになるのは、その間の電流が Rs を通らないからです。ローサイド駆動の 電源+ → Rs → ソレノイド → FET → GND という並びで、Rs は電源から FET へ向かう経路の途中にあります。FET を切ると電源側の経路は断たれますが、コイルの電流はソレノイド内部のダイオードとコイルだけで閉じたループを回り続けます。このループに Rs は含まれていません。電流が消えたのではなく、Rs を通らない道へ移っただけです。外付けでカソードを Rs の電源側に繋いだ図 1 の配置なら、還流電流も Rs を通るのでこの問題は起きません。
電源 → Rs → コイル → FET → GND を流れる。Rs を通るので観測できる。コイル → 内蔵ダイオード → コイル のループを回る。Rs を通らないので観測値は 0。そのため Rs の波形は、ターン ON のたびに 0 から Imin へ垂直に立ち上がる 鋸歯状になります。この段差はコイル電流がゼロから跳ね上がったのではなく、還流ループを回っていた電流が Rs 側の経路へ戻ってきたことを示しています。コイル電流自体は連続で、どこにも不連続はありません。
Rs の観測値をそのまま平均すると D·(Imin+Imax)/2 となり、実際のコイル平均電流 (Imin+Imax)/2 の D 倍に過小評価されます。デューティ 30 % なら実際の 3 割です。保持電流を確認したいときは、ON 期間中の値だけを見るか、コイルと直列にカレントトランスやホール素子式の電流センサを入れて全期間を測ってください。
還流ダイオードの候補は実質この 2 択です。Vf の低さだけで選ぶと逆漏れ電流で足をすくわれます。
| ショットキー | ファストリカバリ | |
|---|---|---|
| 順方向電圧 Vf | 0.3〜0.5 V | 0.8〜1.2 V |
還流中の損失 Vf·I | 小さい | 同条件で 2〜3 倍 |
| 電流の減衰 | 遅い(クランプが浅い) | やや速い |
| 逆漏れ電流 | 大きい・高温で急増 | 小さい |
逆回復 trr | ほぼ無し | 数十〜数百 ns |
| 耐圧の選択肢 | 高耐圧品が少ない | 広い |
ショットキーが効くのは損失です。還流期間が周期の大半を占める PWM 保持電流駆動では、ダイオードの発熱は Vf·I·(1−D) で効いてくるので、Vf が 1/2 になれば発熱もほぼ半分になります。逆回復がほぼ無いぶん、FET がターン ON する瞬間の逆回復電流スパイクも出ません。PWM 周波数を上げるほど有利です。
弱点は逆漏れ電流です。FET が ON のあいだ、ダイオードには電源電圧が逆方向にかかり続けます。ショットキーの逆漏れはファストリカバリより桁違いに大きく、しかも接合温度が上がるほど指数関数的に増えます。漏れ電流による自己発熱がさらに温度を上げる正帰還になるため、周囲温度の高い場所では熱暴走に至ることがあります。高耐圧品ほどこの傾向が強く、そもそも選択肢も限られます。
ショットキー — PWM 保持電流駆動で、還流デューティが大きく発熱を減らしたい。電源電圧が低め(〜24 V 程度)で、周囲温度に余裕がある。
ファストリカバリ — 単発 ON/OFF が主で還流期間が短い。高温環境や高耐圧が必要。待機時の漏れ電流を嫌う用途。ダイオードメーカーの適用ガイドが還流用途に推奨するのはこちらです。
なお Vf を下げると動作点そのものがずれます。定常状態では D·Vs − (1−D)·Vf = I·R が成り立つため、同じデューティのままショットキーに替えると平均電流が上がります。保持電流を揃えるならデューティを絞り直してください。